昇華

時間を超える意志的な憐れや戯れ

動力源

どこにも月なんて出てないじゃないか、と泣く彼女を慰め続ける日を過ごす。月が出ていても、出ていなくても泣き続ける彼女。月の引力によって情緒が不安定になるとかというわけでもなく、たぶん夜になれば泣きたくなるだけであるし、それは月があってもなくても、泣くという行為によりカタルシスに至るだけである。赤黒く迫る宇宙の果て、宇宙の花のような銀河、陰鬱な少女たちが結う髪、艶のある髪のあいだからは、宇宙のインフレーションによる残骸が浮かび、初期宇宙から跳ねた論理や、地球の影から現れる一直線の精神の高揚や、豊かさを謳うだけの結核の鳥たちが売り買いする粒子や、すり替えられた議論の先でギロチンにかけられている市民たちの断末魔や、ダークマターや、慢性的なひざの痛みなんかが混ざる夕食や、融解していく詩の犠牲的な観念の藁人形に五寸釘を打つ美しい女性の後ろ姿が、何か死をも超越しているように見える。時を食べる獣たちの鳴き声が反響する母胎、怠惰な日常にそぐうための価値により傷ついた人々の群れ、濫觴するものから巣だった意識が木々、羊歯からこぼれる朝露、老獪な奴らが示す憎しみに温度、権力に屈するのは、権力を持つ側の者であり、自らが持ってしまった権力により、自らを抑圧し、その抑圧に耐えきられずに反する間には、枢要なものなどはなくなり、ただ権力をたもつための闘争に加担し、わずらわしい意味の中での答えを肯定するためだけに自らを正当化する醜さに自己の奥で震えている。何も悲しくないのが、悲しい、と俯く君の悟性と対峙し、散漫な動機に蝕まれた春の虫、夏により湧いてくる朽ちた感情、ナヨナヨとした浄土をツルハシで掘り、社会的な宝石を集め、清貧な予感がたずさえる倫理観なんかが、世界を苦しめる。誰かの正しさは、悪意にしかならず、絶望を生むだけのその口を縫い合わせ、もう何も喋れないようにする。f:id:jibmfmm:20210530071828j:image