昇華

時間を超える意志的な憐れや戯れ

残り物の君

ポケットには二十円しか入ってなくて、心まで寂しくなって、街中ではしあわせそうな声がマスクの中で遭難してて、みんなは、しあわせそうなフリをするだけで、何かに縋り付いたり、誰かと生き別れたり、サヨナラも言わないで立ち去ったり、去り行くものを睨んだりしながら、しなびた今を孤独と共に抱きしめて、帰り道すらわからなくなって、分け隔てられるままに孤立して、孤高なままに書き連ねて、寝返り打って星をつかまえて、掴み損ねたものを強請ったり羨んだりしないで、どこ吹く風とふくよかな現在に乗っかり、浮かばれない今を恨んでも仕方ないから、しがない今を生命を与えるべく詩的に昇華したりして、知らない今も、通り過ぎてく人ばかりだし、何かにあふれていても、触れていなければ、そこには何もないのと同じなんだよ、と歌う幼児を尻目に、したたかなカラスたちは健やかな翼をはためかせ、悪意を詰め込んだゴミ袋を漁る。偶然ばかりを信じ、まかり通るものが現れるものの中で迷い、漂う意識は縁を求め、かかずらう者どもが徘徊し、誹るだけの人々が巣食う世界の中で意識的な汚穢をためる。たびかさなるエゴにより浸透する痛みを囃し立て、終わらぬ痛みの奴隷になる。言い訳がましく生きるよりも、ここでは綺麗さっぱりと忘れ、行方をくらまし、くたびれた街で胃にたまる揚げ物、現れる誤字脱字や、クラクションの雨、遠ざかる景色の間に現れる数式、真偽をたずさえ、淵源で跳ねる鯉や、結末と上限のあいだに備わる理由やナワバリ、内面世界で滑落する道理や、不明な感染経路、鳴り止まぬ警報機や、中途覚醒を繰り返し、噛みつかれた右腕の痕や、あらがうほどに増していく哀愁のようなものや、開き直るほどに強靭になっていく私の高揚感や、射幸心を煽る行進の音、熱暴走を繰り返す機械たちのハツラツとした表情、情景に現れる懐かしい匂い、羽交い締めにされた数十年間の苛立ち、この言い難い苛立ちのようなものが浸透し、やがて聖なるものを携え、善悪を超越するような革命を自分自身の内部で巻き起こす。凡庸な欲望が空をにごらすの、と嘆く君の横顔、ボブカットの髪揺らぐ優雅な午後、制限の中で蝕まれる面影の落差、さんさんと照りつける太陽から感じられる愛とぬくもり、無知ゆえに嬲る後先、伝記の中に閉じこもり、策略ばかりを続ける人々の墓地で備蓄される憎しみの正体。